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第628回「奈落の底に落ちれば知恵が湧いてくる」(高島陽物語7)

終戦直後の日本では
誰しも惨憺たる生活を強いられました。
当時、大学生であった高島陽さんも
田舎に物売りに出かけておられます。
その頃の体験をお書きになった文章を
紹介させていただきます。

「終戦直後、肝油を売って歩いたことがある。
一流企業の製品で商品は飛び切り上等だったが
売り方はいわゆる、押し売りだった。
長野県のある町に行って一軒一軒門を叩いた。
一コ50銭ぐらいだったと思うがこんな良いものなら
すぐ売れるだろうとたかをくくったのが間違いの元だった。
一日中歩き廻って、ただの一コも売れなかった。
日が暮れて千曲川の橋の上に来た時、
急に不安感が頭をかすめた。
どうせ売れると思っていたので帰りの汽車賃も
用意してなかったのだ。
野宿するしかないかなと橋のたもとに座り込んで
しばらくぼうっとしていた。だいたいくたびれきって
もう一歩も動けない状態だった。

その時だ。『これ一コで卵三つ分』
というキャッチフレーズが頭に浮かんだ。
そうしたらとたんに元気がでてきた。
『ほんとかしら、でもためしてみるわ』
という奥さんがでてきた。
2コ3コと売れ出した。
そしていつのまにか全部売れたのだ。
『これ一コで卵三つ分』というキャッチフレーズが
効いたのかもしれないが、売れなければ
帰れないと言う気持ちが奥さん達の心に
共鳴したのかもしれない。
あれから物を売るということを20年もやったが、
あの時の必死の経験がその後役に立った。」
(『社長のめしの種』。昭和61年)

「奈落の底に落ちれば知恵が湧いてくるものだ」
という趣旨のことが書かれた文章から
抜粋させていただきました。



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執筆者:戸田敦也(2007年05月06日)

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■戸田 敦也 (とだ・あつなり)
toda.jpg 邱永漢思想研究家。経営コンサルタント。問題解決・意思決定の研修講師。昭和18年3月生まれ。昭和40年、東京大学経済学部卒業。同年、八幡製鉄(現新日鉄)入社。平成6年、新日鉄部長を経て、研修業に転じ、現職。以来、邱永漢作品のエッセンス本『原則がわかれば生き残れる』、『アジアの曙』、『生きざまの探求』、『新・メシの食える経済学』(以上、グラフ社)を編集、解説。平成13年『あなたも賢者になれるー私は邱永漢さんの知恵を借りた』(グラフ社)を刊行。邱永漢思想の探求をライフワークとし、その一環として、各地でセミナーを開催。「株式投資の原則」などの通信セミナーも実施。

■戸田敦也さんへのメールはこちらまで: atsunaritoda@gmail.com