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第627回「あきらめなさい」(高島陽物語6)

前回、高島陽さんは、終戦直後、疎開先で
フランス文学の先生から、文学を職業にしたら
大変ですよとされたという話を紹介しましたが、
それに続く文章を紹介させていただきます。

「若いときはいつも心がころころしている。
落ち着かない。惚れたはれたということになると
一種の病気だ。前後の見境がつかなくなる
というのはこういうことだ。
結局放浪の旅に出た。ある晩、山梨県の
小渕沢の素泊まりに泊まった。

真夜中にガタガタと音がするので、目をさますと
足許でよろしくお願いしますという声があった。
真っ暗で何もわからなかったが同宿者は
50歳過ぎの男のようであった。
この頃、なんでそうなったのか覚えていないが、
この見知らぬ人にペラペラと自分の悩みを洗いざらい
しゃべってしまった。
すると足許で『あきらめなさい』という声が掛かった。

朝起きたらもうその人はいなかった。
早く立ったという。結局名前も顔もわからずじまいだった。
しかし『あきらめなさい』というあの一言は効いた。
今までも何回も人からいわれたり
自分でもそう思ってきいたがあきらめきれなかったのが、
あの一言で物の怪が取れたようになった。
何処(いずこ)の方かは存じないが、とにかく、
小渕沢の宿で一夜を共にしたあの人の一言で
新しい生き方を目指すようになった。」
(『社長のめしの種』)

青春彷徨の末にふと出会った人から
投げかえられた一言がきっかけで
高島さんは前に向かって進んでいくことになります。



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執筆者:戸田敦也(2007年05月05日)

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■戸田 敦也 (とだ・あつなり)
toda.jpg 邱永漢思想研究家。経営コンサルタント。問題解決・意思決定の研修講師。昭和18年3月生まれ。昭和40年、東京大学経済学部卒業。同年、八幡製鉄(現新日鉄)入社。平成6年、新日鉄部長を経て、研修業に転じ、現職。以来、邱永漢作品のエッセンス本『原則がわかれば生き残れる』、『アジアの曙』、『生きざまの探求』、『新・メシの食える経済学』(以上、グラフ社)を編集、解説。平成13年『あなたも賢者になれるー私は邱永漢さんの知恵を借りた』(グラフ社)を刊行。邱永漢思想の探求をライフワークとし、その一環として、各地でセミナーを開催。「株式投資の原則」などの通信セミナーも実施。

■戸田敦也さんへのメールはこちらまで: atsunaritoda@gmail.com